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Tuesday, May 16, 2023

高い包丁=いい包丁なのか?合羽橋の名店・釜浅商店の人に包丁について教わった【選び方編】 - メシ通

包丁にこだわると何が変わるのか、ふと気になった

フリーライターの松本祐貴です。ライターの仕事は打ち合わせや取材で外に出ることもありますが、ほとんどの時間が自宅での原稿作成です。自宅仕事をしていて夕方になるとそのまま夕食を作ることも多く、料理をする頻度は週に4〜6回ほど。

しかし、包丁にはまったくこだわりはありません。約20年前に量販店にて3,000円ほどで買ったものを愛用し、だいたい6カ月に1回程度、素人の技術ながら砥石(といし)で研いでいます。今回はそんなライターが「高い包丁とはどんなものなのか? 切れるのか? 素材がいいのか?」などなど、素朴な疑問を専門店のプロに聞いてきました。

素朴な疑問を携えて訪れたのは、東京浅草・合羽橋にある釜浅商店。明治41年創業の老舗です。もともとはご飯を炊く釜を専門に扱っていたことから名前に「釜」と浅草の「浅」の字が入っているそう。その後、炊飯系の道具だけでなく、フライパンなども扱うようになり、現在では包丁だけでも60種類1000点がお店に並んでいます。2018年にはフランス・パリに支店を出店。ヨーロッパでも日本の包丁、料理道具の文化は受け入れられているそうです。
今回疑問に答えてくれるのは、広報マネージャーの齋藤あゆみさん。それでは包丁にはどんな種類があるのかという基本から聞いていきましょう。

話す人:齋藤あゆみさん

釜浅商店広報マネージャー。2018年に入社し、22年まで庖丁売場を担当していた。推しの商品は菜切包丁。

包丁の主な素材は「鋼」と「ステンレス」。それによって生じる違いとは

──まず、包丁にはどんな種類があるのかを教えてください。

齋藤さん(以下、敬称略):大きく分けると和包丁、洋包丁があります。昔から日本で使われてきたのが和包丁。刃が片方にだけついていて、片刃と言います。出刃包丁、刺し身用の柳刃包丁などですね。
一方の洋包丁は、日本に洋食の文化が入ってきたときに一緒に来ました。包丁でいうと、牛刀、ペティナイフ、家庭でよく使われる三徳包丁も洋包丁です。こちらは、両方に刃がついている両刃になっています

他にも中華包丁やそば切り包丁など用途が限られる特殊なものがありますが、一般の人が思い浮かべる包丁は、洋包丁の三徳包丁か牛刀だと思います。

▲筆者が持参した三徳包丁

▲釜浅商店の牛刀

──釜浅商店でよく売れる包丁はどんなものですか?

齋藤:合羽橋という土地柄ゆえに、プロの方が包丁や料理道具を買いに来ます。よってプロ用の和包丁、洋包丁が売れますね。ただ、コロナ禍により、一般の方もご来店されるようになりました。家ごもりの影響なのか、自宅で魚をさばいて、お刺し身まで作るという若い方もいらっしゃいますね。それこそ一般の方が出刃包丁、柳刃包丁を買われていくことも増えました。
当店で扱っているのは、プロの方がメンテナンスをしながら長く使われることを想定した商品で、時間の経過により育っていくものです。そういった一生ものを家庭で使ってもらえるのはよいことだと思います。

──なるほど。まず素材についてお伺いしたいのですが、主にどんな素材があって、それによってどんな違いが出るんですか?

齋藤:包丁の素材は、主に鋼とステンレスですね。ステンレスも細かく分けるとたくさんあります。
鋼はスパッと切れる独特の切れ味が特徴です。あと、食材の身剥がれがよいですね。デメリットはさびが出やすいこと。お手入れをこまめにしていただく必要があります。さびさせないためには、水分を拭き取り、乾燥させることです。長時間使わないときは刃の表面に油を塗っておくとさびを抑えることができます。

齋藤:ステンレスはさびにくいので、手入れに神経質にならなくても大丈夫です。デメリットは鋼と比べて堅い鋼材のため、研ぎ時間がかかるところですかね。
鋼のほうが、おすし屋さんや料亭の方が使う出刃、柳刃包丁など専門性の高いものが多いです。ご自身で研ぐ方は鋼の素材でもよいと思いますが、当店で扱っているステンレスの包丁でも基本的に研いで使っていただくことはできます。

──プロの方が選ぶ、ということは長く使えるということですか?

齋藤:はい。一生ものと言えます。ただ、刃に厚みが出てくるとご自身の研ぎでは扱いづらくなってくるので、当店でもメンテナンスを受け付けています。

──長く使うと包丁に厚みが出てくるんですか……? 薄くなっていくような感じがするんですが……。

齋藤:これは写真で見たほうが分かりやすいですね。例えば、今お客様からお預かりしている包丁がこちらです。推定ですが5~10年ほど使い込んでいる包丁だと思います。

▲同じ型番の商品で左が新品、右が5~10年使い込まれたもの。確かに研がれた分、刃の面積は狭くなっているが……

齋藤:包丁は刃先の部分から峰(背の部分)にかけて厚くなっています。研いで刃幅が狭くなるにつれて、刃に厚みが出てくるんですね。専門店ではこの厚みを落とす技術も持っています。もちろんご自身で研ぐことも大事ですが、1年に一度は専門店でメンテナンスをするのもいいかと思います。

▲こちらは新品の包丁。刃の部分が最も薄く、峰にいくにつれて厚みが増していく

▲一方こちらは5~10年もの。確かに刃が厚くなっている。これを薄く研ぐにはかなりの技術がいるそう

▲比べると刃の薄さの違いが分かる。もはや違う包丁と言えるレベルだ

齋藤:例えば柳刃包丁だと、研ぎながら使い続けるうちに短くなって、最終的にはお刺し身が引けないくらいの短さになります。そうすると、むき物用の包丁として野菜の皮
をむくなど用途を変えて使ったりするんです。
大事にメンテナンスしていけば用途を変えながら長く使うことができます。だから結婚記念のプレゼントに贈られたり、お店を出したときの記念の包丁などを何十年と使ったりする方も多いんですよ。

──用途を変えながら長く使っていく……。なんだかかっこいい……。

ズバリ、料理中級者へのオススメは「三徳包丁」か「牛刀」

──では、料理中級者の読者に、齋藤さんが選ぶオススメの1本を紹介してください。

齋藤:20〜50代の男性に初めての包丁を1本」と言うなら、やはり使いやすい三徳包丁です。カットしたり、皮をむいたり、何でもこなせます。もしくは料理が好きなら、牛刀もいいかと思います。
用途は同じですが、三徳包丁は刃渡りが17~18cm。プロが使うことも多い牛刀は18cmから3cm刻みで30cmぐらいまであります。21cmの牛刀だと、丸ごとのキャベツやローストビーフなども切れますし、一度にたくさんのものを切るときにも使いやすいです。基本的に刃渡りは18~21cmが、家庭用だと使いやすいと思います

▲これらは全部牛刀

──三徳包丁と牛刀で、違いはありますか?

齋藤:切り方が違います。三徳包丁は刃幅が広いので、キャベツの千切りのように上から下に落とす切り方が使いやすいです。
牛刀では、押し切りという、包丁の重さを使って斜め前に押し出す切り方や、先端を使って切るのが得意ですね。鶏モモ肉を1枚から切り分けたり、先端を使って筋を取り除いたりは、牛刀のほうがやりやすいです。

──個人的に出刃包丁なんかかっこいいと思うんですが……。

齋藤:「魚を1匹から三枚におろす」ことが目的であれば出刃包丁をオススメします。三徳包丁でもできなくはないんですけど、刃が薄いので、魚の骨で刃が欠けるリスクがあります。もし特定の用途を想定しているなら、ご相談いただければ、最適な包丁をご用意しますよ。

▲店内には「フグ引包丁」など超限定用途の包丁も数多く並ぶ

包丁研ぎは、慣れれば15〜20分ほどでできる

──なるほど。私の場合は家族みんなで食べる料理を作ることが多いので、大きく切ることができる牛刀がよいかもしれません。包丁を買ってからは、家でのメンテナンスはどのようにすればいいですか?

齋藤:ステンレスの包丁に関しては、普通の食器用スポンジと洗剤で洗い、水気をしっかり拭いてから包丁差しにしまっていただければ問題ありません。素材がステンレスでも、よく切れる包丁ほどさびは出やすいんです。汚れたまま、ぬれたまま放置しないのが重要です。水切りカゴに入れっぱなしだと、さびにつながったり、食器と当たって刃が欠けたりすることもあるのでNG、食洗機も使わないほうがいいですね。
取扱説明書にもありますが、かぼちゃや凍った素材にも気をつけてください。硬い野菜を切るとき、途中までしか刃が入らず、横にグリグリと左右によじると刃こぼれ、刃の欠けにつながります。電子レンジなどを使って、柔らかくしてから切ってください。

──面倒と考える人も多いんですが、包丁研ぎについて教えてください。どんな道具があって、どうすればいいですか?

齋藤:砥石で研ぐのが1番ですが、難しければ簡易的なシャープナーでも大丈夫です。ただし、シャープナーは刃先を整えるだけで、厚みや変形は調整できません

──シャープナーで研ぐだけだと厚みが出てしまう、と。研ぎ方次第で包丁が変形してしまうことってあるんですか……?

齋藤:包丁への力の入れ方で変形することがあります。また、砥石自体がゆがんだまま研いでしまうと包丁の変形につながります。1年に1回ぐらいは専門店で研いでもらうほうがいいですね。

──砥石にも種類がありますか?

齋藤:大きく分けると、荒砥(あらと)、中砥(なかと)、仕上げ砥(しあげと)になります。荒砥は、欠けたり、刃こぼれしたり、全然切れなくなってしまった包丁に使います。家庭用で切れ味を戻すなら中砥と呼ばれる1000番(※)のものが一つあれば十分です。仕上げ砥は刃をつけた後に、刃先をより滑らかにするために使います。切り口もキレイになりますね。

※砥石の粗さは「#○○〇」で表され、#の後に入る数字が小さいほど粒度が粗くなる。

▲左から、荒砥、中砥、仕上げ砥

齋藤:家庭用の中砥ですと、お値段も3,000円前後からあります。砥石も一生使えますが、使い続けるにつれ真ん中がゆがんでくることがあります。ゆがんだ砥石で研ぐと包丁もゆがんでしまうので、砥石をフラットにする修正用の砥石もあります

──砥石を研ぐ砥石があるんですね……。包丁はどれぐらいの頻度で研ぐべきですか?

齋藤:包丁の刃に使われている鋼材によって違ってきます。ただ共通して言えるのが、明らかにはじめの頃と比べて切れ味が落ちたら研いでいただくのが理想ということです。またトマトやナスといった皮の薄いお野菜が切りにくくなったら研いでいただくとよいと思います。切れなくなる前の切れ味が落ちたぐらいのときに研ぐと刃も戻りやすいですね。

──あ、意外とそれくらいの頻度でもよいんですね。

齋藤:ただまな板も重要で、プラスチック系の硬い素材だと、切れ味の落ちる速度も速くなります
木でも、例えばヒノキとかイチョウとかそういったものは柔らかく、包丁の刃先が当たったときにしっかりと受け止めてくれます。ただ、「木のまな板の場合は黒ずみが気になる」という方もいらっしゃると思います。そんな方向けに当店では、クッション性のあるプラスチック系の酢酸ビニル(EVA)を使用した「庖丁にやさしいまな板 黒」という商品を開発しています。

▲「庖丁にやさしいまな板 黒」。特小:3,190円(税込み)から特大:17,600円(税込み)まで5サイズで展開中(写真提供:釜浅商店)

──1回の包丁研ぎにはどれぐらいの時間がかかりますか?

齋藤:慣れてくれば15分から20分ほどで研ぎ終わります。砥石の種類によっては使用前に20分くらい浸水させてから使うものもあるので、全体では40分くらいかかる場合もあります。
一般的な三徳包丁は「1枚鋼材」で右利きの方に使いやすい刃先の角度で仕上げられていて、7:3に研ぎます。一方、「割り込み」は、真ん中に堅い鋼材があって柔らかい素材を重ねています。これは、5:5で刃がついています。それらの比率により、研ぐときの回数が異なってきます。

釜浅商店のウェブサイトより。1枚鋼材は7:3、割り込みは5:5で研ぐ回数を配分するとよい(目安)

──詳しい研ぎ方は釜浅商店さんの解説を見てみます。

齋藤:刃がついている感覚を理解できれば、研ぐことはそんなに苦じゃありません。カエリ、いわゆる金属のめくれができていると、研げているという合図です。

──研ぐ回数はどれぐらいですか?

齋藤:刃の部分を刃先と真ん中、根元の三つのパーツに分けて、目安としては20回から30回くらい研ぎます砥石に当てる刃を起こす角度は10円玉を2枚重ねた分ぐらいです。最初は10円玉を2枚手元に用意して、角度を確かめながら研いでみるとよいと思います。

──包丁研ぎも専門のお店に出すと2,000〜3,000円ほどしますよね……。スーパーの店先の数百〜1,000円ぐらいの研ぎ屋さんはどうでしょうか?

齋藤:それに関しては、私どもも研ぎ屋さんによって仕上がりが異なるため判断がつきません。「人による」と言ってしまえば全部そうなのですが……。当店の場合、スタッフが手で研ぐこともありますが、専用の機械で刃の欠けの修理や厚みを落としたりと刃の状態に合わせて修理を行っています。

ここまでで分かったこと

①包丁には大きく和包丁と洋包丁がある

和包丁は片刃で和食の専門的な用途に適している。洋包丁は両刃で日常使いにも適している

②刃の鋼材は主に鋼かステンレス

鋼は出刃包丁のような専門的な包丁で使われることが多く、独特な切れ味があ
るがさびやすいので手入れに手間がかかる。ステンレスはさびにくいが砥石で研
ぐ際は時間がかかる場合もある。

③料理中級者にオススメなのは三徳包丁か牛刀

主な違いは刃渡りと切り方。三徳包丁のほうが短いため、取り回しを重視するのであれば三徳包丁がオススメ。大きな食材を切りたい方などは牛刀がオススメ

④砥石は800番〜3000番までの中砥石が一つあればOK

トマトやナスといった皮の薄い野菜が切りにくくなったら研ぐのがベスト。切れ味を持続させるためにまな板にこだわるのもよし

さて、なんとなく包丁に関する基礎知識が固まってきたところで、選び方編はここまで。次回、いよいよ私が購入する包丁を選びます。これまでの話だと三徳包丁か牛刀がよいようですが果たして……。

▲そして次回冒頭、私が約20年我流で研ぎながら使い続けてきた量販店の包丁を、プロの研ぎ手に見ていただきます。どんな酷評が発せられることやら……

(続く)

お店情報

釜浅商店
住所:東京都台東区松が谷 2-24-1
電話番号:03-3841-9357(庖丁売場)
営業時間:10:00 〜 17:30
定休日:年中無休(年末・年始を除く)
毎月末日は社内研修のためPM4:30に閉店。詳細はHPや各種SNSにてご確認ください。
ウェブサイト:https://www.kama-asa.co.jp/

書いた人:松本祐貴

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1977年、大阪府生まれ。フリー編集者&ライター。雑誌記者、出版社勤務を経て、雑誌、ムックなどに寄稿する。テーマは旅、サブカル、趣味系が多い。著書『泥酔夫婦世界一周』(オークラ出版)、『DIY葬儀 ハンドブック』(駒草出版)

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