米株式市場の過去10年間にわたる並外れた好パフォーマンスは、誠実に長期保有の投資戦略を取って人々に他のいかなる資産クラスをも上回る高リターンをもたらしてきた。
これまでのリターンがあまりにも大きいため、これからの市場がどれほど活況となったとしても、過去10年間のような好パフォーマンスを再現するには奇跡に近い企業利益とバリュエーションの増加が必要なのは極めて単純な計算で分かると、ＡＱＲキャピタル・マネジメントのプリンシパル、ジョーダン・ブルックス氏は指摘する。
ブルックス氏は2013年７月１日から23年６月30日までの10年間を対象に、米財務省短期証券（Ｔビル）の年換算平均リターンを差し引いた分のＳ＆Ｐ500種株価指数の年換算平均リターン約12％について、けん引役を分析。現在の市場の出発点が高水準にあることを踏まえれば、こうした平均的リターンであっても生み出す見込みは低いと結論づけた。
「過去10年間の株式市場の再現を目にするには幸運が重ならなければならない」と指摘。「好パフォーマンスが長く続いた後は、バリュエーションが高水準にあるのは典型的で、将来を考慮した期待リターンは低めの結果になる」とブルックス氏は話した。
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AQR, Bloomberg
Ｓ＆Ｐ500種の今年の上昇率は24％、テクノロジー株の比重が大きいナスダック100指数は約54％と1990年代終盤のドットコム・ブーム以来の年間上昇率となった。こうした数字に上昇継続を妨げるものはないものの、バリュエーションが現時点のような高水準にあることから、好パフォーマンス再現に必要な試練の大きさが計算から明らかとなる。
ブルックス氏の分析によれば、Ｔビル年換算平均リターンを差し引いた分のＳ＆Ｐ500種の年換算平均リターンは今年６月末までの10年間で11.9％と、米国以外の先進国の株式市場やコモディティー、複雑なクオンツ戦略など他の全てを上回る。分析期間は６月末までだが、その後さらに７％上昇した市場にも当てはまる。
同氏の観点から、株式強気派に問題となるのは十年間増大が続いた後のバリュエーションだ。過去10年間の利益平均を用いて変化をならした「景気循環調整後の株価収益率（ＣＡＰＥ）で見ると、Ｓ＆Ｐ500種は30倍強と歴史的に高めの数字となっている。
定義上、株価上昇には増益かバリュエーション増大、配当増加の三つのうち一つが必要だ。ブルックス氏は、過去10年間の株価大幅上昇の再現には、このうち増益とバリュエーション増大の二つが求められるとする。
今後10年間の年間増益率が実質ベースで比較的高めの4.5％となったとしても、Ｓ＆Ｐ500種が好パフォーマンスを繰り返すことができるようになるには、ＣＡＰＥが55倍とこれまで耳にしたことのない数字に達する必要があると同氏は計算する。
Source: AQR
ジョーンズトレーディングのチーフ市場ストラテジスト、マイケル・オルーク氏はさらに事態を複雑にする要素として、主要政策金利がほぼゼロだった日々が過去のものとなった点を挙げる。「大型の金融刺激策により株価収益率が大幅に上昇した。過去10年間が繰り返される見込みはない。経済は構造的シフトのさなかにあり、それは従来ほど良い状態につながらないだろう」との考えを示した。
一方、ブルックス氏の計算では、年間の実質増益率が６％に改善したとしても、過去10年間に匹敵するリターンの好パフォーマンスには、ＣＡＰＥは50倍に達しなければならず、それはドットコム・バブル期に付けたピークを上回ることを意味する。「最も極端な実質利益シナリオでも、株式市場のバリュエーションが過去最高を更新しなければならない」とコメントした。
また現時点では人工知能（ＡＩ）や、米金融当局の引き締め局面終了観測を巡って高揚感が広がっており、アナリストは企業利益の急増を見込んでいる。ブルームバーグ・インテリジェンス（ＢＩ）の集計データによると、24年増益率のコンセンサス予想は11％、25年は12％だ。しかし、こうした大幅増収はまれであり、２年連続の２桁増益は2017、18両年にまでさかのぼる。
原題： Decade-Long S&P 500 Bull Surge Is Running Into a Valuation Wall（抜粋）
米Ｓ＆Ｐ500種、バリュエーションの高い壁に直面－過去10年の好調後 - ブルームバーグ
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