傾斜した被災ビルを迅速に強制解体 高い危機意識「財産より人命優先」 台湾地震 - 産経ニュース

解体作業が急ピッチで進む「天王星ビル」。瓦礫や粉塵が飛散しないうように消防車から放水が行われた＝８日午後、台湾東部・花蓮（桐原正道撮影）

【花蓮（台湾東部）＝白岩賢太、五十嵐一】台湾東部沖地震で被害が大きかった花蓮市では、地元当局が発災翌日に傾いたビルの解体に着手するなど、日本の災害現場とは異なる迅速な対応が注目を集めた。台湾では被災建物が周囲に危険をもたらすと判断した場合、所有者に通知することなく強制的に撤去できると法律で規定しており、危機意識の高さが際立つ。

８日午後、解体が進む花蓮市中心部の９階建てマンション「天王星ビル」の前で、重機を使った工事の進捗状況をじっと見守る住人女性（６９）の姿があった。

「自室には貴重品が残っている。何とか入らせてほしいと、何度も頼んだがダメだった」。６階に住んでいた女性は、十数年前に８０万台湾元（約４００万円）でマンションを購入。間取りは１ＤＫ。「狭いけど私にとっては大切な家」。被災後は毎日、現場を訪れているという。

解体作業が急ピッチで進められている地震によって傾いた「天王星ビル」。瓦礫や粉塵が飛散しないように、消防車による放水が行われていた　＝８日午後、台湾東部・花蓮（桐原正道撮影）

このマンションでは被災直後、住人ら約２０人が救出されたが、女性１人が死亡。約４５度に傾くビルは余震の影響でさらに傾斜が進んでいるとみられ、地元当局は完全に倒壊する危険を回避するため、早期の取り壊しを決めた。

地元当局によれば、建築士らが柱や壁のひび割れ状況などを個別に調査し、被災建物の倒壊リスクが最も危険な場合は「赤」、住むことが可能な場合は「黄」、問題がない場合は「白」の３つに分類。赤と判定された場合、建築法に基づき、所有者や占有者に通知することなく、当局が強制的に撤去できる。

解体作業が急ピッチで進められている地震によって傾いた「天王星ビル」。瓦礫や粉塵が飛散しないように、消防車による放水が行われていた　＝８日午後、台湾東部・花蓮（桐原正道撮影）

花蓮県行政当局の呉昆儒さん（５１）は「解体工事が始まってから住民から反発の声が上がっているのは知っている。だが、喪失財産よりも人命を優先するのは当然だ」と話す。

日本でも被災したビルや家屋が倒壊し、二次災害のリスクが高まれば、災害対策基本法や民法の規定に基づき、所有者らの意思に関係なく、建物を撤去することはできる。

ただ、現実には自治体が個人の財産権などに配慮するあまり、解体に慎重を期すケースが多い。日本と台湾はともに地震大国だが、危機意識には大きな隔たりがある。

地震によって１階部分が押しつぶされた５階建てビルが建っていた現場（上）（３日撮影・提供写真）は、建物の解体が終わり更地になっていた（下）＝８日午後、台湾東部・花蓮（桐原正道撮影）

地震によって１階部分が押しつぶされた５階建てビルが建っていた現場は、建物の解体が終わり更地になっていた　＝８日午後、台湾東部・花蓮（桐原正道撮影）

地震によって１階部分が押しつぶされた５階建てビルが建っていた現場は、建物の解体が終わり更地になっていた　＝８日午後、台湾東部・花蓮（桐原正道撮影）

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