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Sunday, October 15, 2023

円安定着させる外貨流出、背後に「投資性の高い保険商品」の存在 ... - Business Insider Japan

新時代の赤字 円安

粘着質な円安の背後にある需給の構造的変化、その象徴とも言える「新時代の赤字」に注目する必要がありそうだ。

REUTERS

先週の寄稿「日本の『デジタル赤字』はクラウド支出など8年間で倍増以上。外国人観光客からいくら稼いでも…」に関して、読者の方々からさまざまなご意見ご感想をいただいた。

寄稿の内容は、8月10日に発表された日銀レビュー『国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化』を元に、筆者が“新時代の赤字”と呼ぶ「その他サービス」収支の赤字について、そのほとんどがデジタル関連収支から生じている実態を指摘した。

日銀は上記レビューの中で、これまで「輸送」「旅行」「その他サービス」の3項目に分類していたサービス収支を、新たに「モノ関連収支」「ヒト関連収支」「デジタル関連収支」「カネ関連収支」「その他」の5項目に分類した。

下の【図表1】は、比較可能な最も古い統計データのある2014年以降について、日銀レビューの示す5分類に従ってサービス収支の項目を組み替え、その変化を見たものだ。

図表1

【図表1】日銀レビューの分類に従って組み替えたサービス収支の変化。2022年については1〜8月の合計値を示した。

出所:日銀レビュー「国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化」を元に筆者作成

直近2022年までの8年間について確認できる変化は、以下の3点に集約される。

  1. ヒト関連収支の黒字が拡大したこと
  2. デジタル関連収支の赤字が拡大したこと
  3. カネ関連収支の赤字が拡大したこと

1はインバウンド(訪日外国人観光客)需要の増加を中心とする旅行収支の受取り増を、2は通信・コンピューター・情報サービスをはじめとする各種デジタルサービスの支払い増が要因だった。

さて、前回寄稿ではあえて触れなかった点だが、3の「カネ関連収支の赤字」拡大は何を意味しているのだろうか

カネ関連収支は、2014年に1599億円だった赤字が、2022年には1兆1053億円と10倍近くまで膨らみ、2023年は1~8月の合計ですでに1兆657億円と、前年を上回るペースで赤字幅が拡大している。

この8カ月間、急激なインバウンド需要の回復を背景にヒト関連で稼いだ黒字2兆3329億円のおよそ半分が、カネ関連の赤字に消えている構図だ。

海外の保険・年金サービスへの支払い増

カネ関連収支は従来「保険・年金サービス」および「金融サービス」に分類されていた内訳を組み替えたもの。下の【図表2】を見ると分かるように、再保険・貨物保険の損害保険料などを計上する「保険・年金サービス」の赤字幅拡大が、収支悪化の要因となっている。

図表2

【図表2】サービス収支のうち「カネ関連」収支の動向変化。

出所:日銀レビュー「国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化」を元に筆者作成

保険・年金サービスの赤字拡大は、特に「再保険料」の支払い増の影響が大きいとされる。

再保険……保険会社が自身で引き受けた保険のうち、主として高額契約などについて保険契約のリスク分散を図るべく、国内外の再保険引受会社と結ぶ保険契約。

日銀は保険・年金サービスの支払い増の背景として、次のような事実を挙げる。

国内で投資性の強い保険商品の契約が増えている中、本邦の保険会社が市場リスクを抑制するために海外の再保険引受会社と結ぶ再保険契約も増加している」

明記されていないものの、日銀の指摘する「投資性の強い保険商品」とは、保険料の払込みや保険金・解約返戻金などの受取りを外貨で行う「外貨建て保険」や、支払った保険料の一部を株式や投資信託などで運用する「変額保険・変額個人年金保険」などを指すと思われる。

折りしも、9月末には金融庁が外貨建て保険商品の販売体制を問題視し、その監視を強化するとの報道が出たばかり。日本経済新聞(9月28日付)は以下のように報じている。

「金融庁は銀行や証券会社の外貨建て一時払い保険の販売について実態調査に乗り出す。他の金融商品との比較説明などが不十分で、売れば売るほど営業担当者の人事評価や給与が高くなる体系にも問題があるとみている。

調査で具体的な問題が見つかれば、金融機関側に販売や評価体制の見直しを促す」

行政として看過できないレベルまで流行している保険商品が、サービス収支の構造変化に少なからぬ影響を及ぼしているという視点で見ると、興味深い現象だ。

岸田政権の掲げる「資産運用立国」を旗印に、貯蓄から投資へのシフトを焚きつけるムードが強まっているが、すでに保険商品を通じた投資性の高い運用手法が相応に流行していて、結果としてサービス収支の構造にも影響が出始めている、という解釈もあながち間違いとまでは言えないのではないか。

赤字拡大が進む保険・年金サービスの支払い先を国・地域別に見ると、(大手保険会社を擁する)アメリカやイギリスの割合は当然大きいが、税制上のメリットから再保険市場が発達している中南米への支払いが2020年以降、顕著に増えていることも注目される【図表3】。

図表3

【図表3】保険・年金サービスの支払い先の変化。「中南米」は、ケイマン諸島、ブラジル、メキシコを除いた合計値。

出所:日銀レビュー「国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化」を元に筆者作成

ただし、保険・年金サービスの支払い増による収支赤字の拡大だけに注目すると、全体としての現状認識が不正確になる面もある。日本の保険会社が近年、海外の保険会社を買収するケースが増えている事実も、併せて考えておく必要があるだろう。

海外の保険・年金サービスへの支払いは、サービス収支においては赤字の要因となっているものの、買収した海外保険会社が日本企業の現地法人となることで、第一次所得収支の黒字(配当金など)として日本に還流する可能性もある。

その点、冒頭で触れた日銀レビューも「(日本の保険会社が)サービス収支ではなく第一次所得収支の黒字幅拡大に寄与している点も指摘できる」とする。

なお、現地法人の配当金などを第一次所得収支の黒字として計上できるとしても、それが本当に日本へ還流するカネなのかについては、相当な議論があることも指摘しておきたい。

長期的には経常黒字国としての地位も危うく……

日本のサービス収支は、インバウンド需要を背景にヒト関連収支の黒字拡大が進んでいるものの、一方でデジタル関連収支とカネ関連収支の赤字拡大ペースも相当に加速しており、それらがサービス収支ひいては経常収支の足かせとなっているのが現状だ。

日銀レビューの分析を読む限り、サービス取引のグローバル化は明らかに日本から海外への外貨流出を拡大する方向に作用している。そしてそれは、これまで存在しなかった円安要因でもある。

2022年のサービス収支赤字は約5.4兆円、デジタル関連収支とカネ関連収支の合計赤字は約6兆円。インバウンド需要が支えるヒト関連収支が約0.8兆円の黒字なので、サービス収支の赤字はそれでほぼ説明できてしまう。

現状、貿易収支とサービス収支では前者の方が絶対額が大きいので、後者の影響は軽視されがちだ。しかし、その性質を考慮すると、サービス収支の赤字はまだ拡大する余地があるように思える。

サービス収支が恒常的に5~6兆円の赤字を記録している場合、当然のことながら、同規模の貿易収支黒字を出さないと(実体取引の動向を示す)貿易・サービス収支は黒字にできない。

しかし、日本の貿易収支が安定的に5兆円以上の黒字を記録できていたのは、2010年以前の話だ。この10数年は、最大の黒字幅を記録しても5兆円程度で、貿易赤字に慢性化の気配すら見える

貿易収支はもはや2010年以前の姿には戻らないという仮定に立てば、拡大基調のサービス収支赤字が(第一次所得収支は堅調な増加を続けているとは言え)、長期的には経常黒字国としての日本の足場を崩すことにつながるという見方も可能だろう。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

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