所得環境の改善を受け個人投資家が株式投資に前向きな姿勢を強めており、史上最高値圏で推移する日本株相場をさらに押し上げる可能性がある。
厚生労働省が8日に発表した5月の毎月勤労統計調査によると、基本給に当たる所定内給与が前年同月比2.5%増と前の月の1.8%増から伸びが加速し、伸び率は1993年1月以来の大きさとなった。物価と賃金の好循環の実現に対する株式市場の期待感が保たれた格好だ。
基本給31年ぶりの高い伸び、春闘反映-実質賃金は26カ月連続マイナス
野村証券の須田吉貴クロスアセット・ストラテジストは、所得環境の見通しが明るくなると株高期待が強まる傾向があると指摘。根拠として、内閣府が毎月公表する 消費動向調査で資産価値に対する関心が高まっている点を挙げた。潜在的な投資家層に当たる世帯年収1200万円以上の層で、所有する株式や土地などの資産価値についての意識が2013年以来の高水準で推移しているという。
同水準は最近の株価の上げ幅と比較しても極めて高く、所得環境の改善が強気の見方に反映されている可能性が高いと須田氏は分析。自身の所得見通しの改善で景気拡大を実感するだけでなく、デフレ脱却やインフレ定着シナリオへの確信を強めるという二つの経路から、株高期待につながりやすいと話している。
個人の積極的な株式投資に対する姿勢を後押しするのは所得環境だけではない。今年改正された少額投資非課税制度(新NISA)もその一つだ。
日本証券業協会が大手証券10社への聞き取りを基にまとめた資料によると、1-5月のNISA経由の買い付け総額は6兆6000億円で、このうち国内株式の比率は44%で3兆円弱だった。統計データの基準は異なるが、東京証券取引所が公表する投資部門別売買状況のデータでは個人は昨年、日本株を 2兆9000億円売り越していた。
JPモルガン証券の高田将成クオンツストラテジストは、7月に入ってからアクティブな個人投資家に人気の高い高配当株などへの買いが急増していると説明。例年、ボーナスの支給時期には現物株買いが増える傾向があり、今年も日本株市場に流れてきたようだ。
もっとも、物価の影響を除く実質賃金は依然マイナスで、プラスに転じるには早くてもあと数カ月かかると市場ではみられており、国内消費の低迷が株価の上値を抑えるリスクはある。
また、JPモルガン証の高田氏は足元で日本株投信から今年初めて資金流出が起きたと指摘。一部個人は新NISA経由で投信を売却しながら、「夏季休暇用のレジャー予算の手当て、高配当銘柄への新規投資、海外株型投信への資金の振り向けを行っている」と推察した。
とはいえ、東証株価指数(TOPIX)と日経平均株価が史上最高値を更新する中で利益獲得の成功体験をした投資家は多く、堅調な企業業績や株主還元策への期待で相場の先高観も強いため、個人の日本株買いが続く可能性は十分ありそうだ。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之チーフストラテジストは「個人投資家は証券会社から勧められても株を買おうとはしないが、身近な人が株を買ってうまくいっていると聞けば、自分も買おうとなりやすい」と話している。
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